【2438日目】書評『ルポ中年童貞』(中村淳彦:幻冬舎新書)

2015年、まだ始まって1カ月ですが、いきなり今年の新書業界を賑わす本命登場、といった感じでしょうか。

タイトル通り、中年童貞を追いかけたルポルタージュ。

中年童貞と言えば、2007年に出版された「全国童貞連合」会長・渡部伸氏による『中年童貞〜少子化時代の恋愛格差〜』が存在しましたが、あれから8年経って、中年童貞問題が、単なる「恋愛弱者」「性的弱者」を超えて、貧困・非正規労働・障害などの「社会的弱者」という文脈で語られるようになったことが印象的です。

女性の援助交際=個人売春が、一昔前は「性の自己決定」「自己責任」「新しい人間関係の形」ともてはやされていたことがありましたが、おそらく、というか確実に、その当時も、経済的貧困や関係性の貧困を理由として個人売春に乗り出す女性は大勢存在していた。

中年童貞問題も、現代特有の問題というよりも、歴史的に見れば、ずっと昔から連綿と存在し続けた問題だと思います。前近代の社会では、長男は家督を継いで結婚できたが、次男や三男は一生結婚できず、家で下働きをさせられるか、家を出て自力で仕事を探すかしかなかった時代もあったそうです。

そういう意味で、昔から存在していたにも関わらず、なかなかスポットライトを当てられることの無かった問題に、本書が光を当てた、ということの意義は高く評価されるべきかと。性教育の世界でも、NPOの世界でも、ほとんど無視、または黙殺されてきた問題でしたしね。

本書の中でも触れられていた通り、中年童貞、「北欧だったら路上で凍え死ぬ人たち」「生物学的には淘汰されてしかるべき人たち」なのかもしれません。

しかし、ルポを読み進めて頂ければお分かりの通り、中年童貞の方々の思考回路や行動パターン、男性であれば、多かれ少なかれ、理解・共感できる部分があると思います。私も、とてもじゃないが他人事とは思えなかったです(笑)。

中年童貞は、ほとんどの場合、もう誰にもどうにもできない、あらゆる意味で救いがたい存在なのかもしれない。でも、家族にも、地域にも、制度にも見放された人を、見捨てずに支援するのが、本来の「福祉」のあるべき姿なのではないでしょうか。今の時代を生きる全ての男性に、中年童貞になる可能性があるのであれば、なおさらです。「自己責任」や「個人の努力・度胸」で済まされる話ではない。

第五章にて、ホワイトハンズのヴァージン・アカデミアも出させて頂いたのですが、「性的な自立は、社会的な自立に直結する」という言葉、障害者福祉や性教育の世界ではある意味使い古された言葉なのですが、本書の中だと、異様な説得力を発揮するなぁ、と。

「親によるケアから離れ、性的に自立することが、地域での自立生活や就労の原動力になる」ということを、障害者の性に関する研修や講演等でお伝えしているのですが、これは健常者にも全く同じように当てはまると思います。


最後に、中年童貞を卒業するための条件として、「厳しい父の存在」「マザコンからの脱出」「自立」の3つが処方箋として出されていましたが、これらはいずれも、「中年になってからではほぼ無理」という難点がありますよね。

30を超えた中年男性をわざわざ叱って導いてくれる人はまずいませんし、実家に30年以上住んでいる男性が、いきなり自立するのは経済的にも生活面でも厳しい。

生活習慣病と同様、いったん病にかかってしまうと、治すのは非常に難しくなってしまう。単一の原因があるわけでなく、これまでの数十年間の思考や行動の積み重ねで発生する問題であるわけなので。まさに『男子の貞操』で述べた、「性」活習慣病ですね。

そう考えると、やはり、現時点の処方箋としては「予防」しかない。ホワイトハンズとしても、本書を参考資料にして、ヴァージン・アカデミアのプログラムをさらに改良していきたいと思います。


余談ですが、中年童貞及び予備軍の人の職場、実は「起業」が向いているような気がします。

通常の労働市場だと、コミュニケーション能力やら協調性やらが求められる上に、常に誰かや何かと比較され続けるわけなので、中年童貞的な人にとっては極めて生き辛い世界だと思います。

ニッチな世界を土俵にした上で起業して、実家とITの力を借りつつ、引きこもって仕事に集中しながら五年〜十年じっと粘れば、一人で食えるだけの稼ぎは何とか捻出できるかと。真面目で辛抱強い人が多いのであれば、選択肢の一つとしてはありだと思います。もちろん、マルチまがいのネットビジネスにカモられるリスクはありますが、すくなくとも、介護よりははるかに未来があるような気がします。


***********************************
一般社団法人ホワイトハンズ 
 
代表理事 坂爪真吾(さかつめ・しんご)
 
私たちは、「新しい性の公共」をつくります。
 
新刊『男子の貞操』(ちくま新書)、好評発売中!

★ホワイトハンズ:2015年のイベント予定

■1月15日(木) 「生と性のバリアフリー手帳」発売開始!

■2月15日(日) 「障がい者の性」応用研修@渋谷

■2月22日(日) ららあーと@東京

■3月8日(日) 風俗福祉基礎研修2015@渋谷

■3月22日(日) セックスワーク・サミット2015@渋谷


■4月12日(日) 「障がい者の性」基礎研修@福岡

■5月17日(日) 「障がい者の性」基礎研修@渋谷

■5月30日(土) 「障がい者の性」基礎研修@広島

■5月31日(日) 「障がい者の性」基礎研修@大阪

■6月14日(日) 「障がい者の性」基礎研修@名古屋

■7月11日(土) 生と性のバリアフリーフォーラム2015@渋谷

■7月18日(土) セックスワーク・サミット2015 「東京五輪と性風俗の未来」

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