【2130日目】書評「知的障害者と自立 青年期・成人期におけるライフコースのために」(新藤こずえ・生活書院)



ものすごい名著を発見!・・・にもかかわらず、ネットで検索してみると、新刊なのにAmazonで本の画像がアップされていない&書評も全く無し、という不遇な状況だったので、このブログ経由で100冊売ってやるぜ位の勢いで、勝手ながら書評を書かせて頂きます!

本書は、「親亡き後にどうするか」という親目線、「親亡き後に暮らすであろう施設内で、いかに円滑な日常生活を送ることができるか」という支援者目線でしか語られてこなかった知的障害者の自立論を、社会モデルと青年期・成人期のライフコースの観点から批判的に再検討し、知的障害者が「大人になる」ことを視野に入れて、新たな生き方の展望を提示することを試みた一冊。

「個別的な自立」のみに焦点を当てると、ADLの自立にのみ過剰にこだわり、かつ子が自分の元から離れてしまうことを嫌がる「親の自立観」や、他者とのコミュニケーションを円滑にとることと、他者からのケアとサポートをスムーズに受けられるようになることを目指す「支援者の自立観」が支配的になってしまい、恋愛や結婚などの私的な人間関係づくりを希求する「当事者の自立観」は黙殺されがちになってしまう。

現実の当事者は、世間に流布しがちな、いわゆる「ADLの自立」や「就労による経済的自立」といった表層的&行政的な美辞麗句よりも、恋愛や結婚といった私的な人間関係の構築、及びそれらを取り結ぶためのコミュニケーションやセクシュアリティへの関心の方が圧倒的に高い。しかし、そうした欲求は、「親の自立観」や「支援者の自立観」が支配的な現場においては、完全に見て見ぬふりをされている。

そのため、大半の知的障害者は、定家族の中、及び親と支援者の作り上げた疑似的就労を行う障害福祉サービス事業所の中で暮らすことが「全世界」になってしまい、人間的成長、及びその後の人生が、その中だけでほぼ完結してしまう。

知的障害者の自立観は、親と支援者の自立観、及びそれらに影響を与えている「知的障害者はかくあるべし」という「社会の自立観」によって構築されている。こうしたアイデンティティの他者依存性によって、知的障害者の自立論は、ADLの自立や就労による経済的自立(及びそれらの実現困難性)の問題へと疎外・矮小化され、袋小路に陥っている。

こうした状況を打開するために、知的障害者の自立支援を、個別的な自立に焦点を当てるのではなく、当事者が「大人になる」ための私的(恋愛や結婚)・公共的(居場所の整備)・公式的(教育や雇用)な各領域における複合的なサポートとして位置づけしなおす必要がある。そのために、旧来の平面的かつ表層的な自立論を超えた、複線的かつ立体的なライフコースの視点から、知的障害者の人生における選択肢の多様化を探っていくことが、新たな展望を見出すことにつながるのではないか・・・というのが、著者の大まかな主張です。

社会モデルの観点からの分析になるので、最終的に出される処方箋は「知的障害者の社会関係を広げること」「親以外の他者が、個人としての知的障害者本人の支援に関わる仕組みづくり」「当事者自身が直接社会とつながれるようなネットワークの構築」といった、古典的なものになります。

まぁ、社会モデルの観点から障害の問題を考えれば、当事者の社会性を向上させることが解として提示されるのは当たり前、というかそれ以外に結論が出ようがないので、その意味では極めて演繹的な本だと言えなくもないのですが、その点を差し引いても、非常に面白く読めました。

私も、かれこれ6年近く「障害者の性」問題にかかわってきて、ライフコースの観点から障害者への性的支援を捉えなおす必要性を痛感していたので、本書の指摘は、「まさにその通り!」と、うなづきまくりながら読了しました。

本書の中にも出てきましたが、そもそも「ノーマライゼーション」という理念をいち早く取り入れたスウェーデンにおける脱施設化の本来の目的は、「知的障害者にノーマルな結婚生活および子供を持つことを保障すること」にあったわけですから。

そう、「障害者の性」問題の向かうべき最終ゴールは、「障害の有無にかかわらず、誰もが安心して子供を産み育てられる社会をつくること」なんですよね。

にもかかわらず、「ノーマライゼーション」や「バリアフリー」といった言葉が、恋愛や結婚をはじめとしたセクシュアリティ、ライフコースの問題として語られることは、日本では非常に少ない。道路の段差の整備や、エレベーターの設置といった、表層的かつ物理的な(土建屋的な?)問題としてしか理解されていない。「障害者の性」問題も、性的弱者の救済問題、性欲発散の問題としてネタ化・矮小化されてしまい、生きていく上での当たり前の権利として、ライフコースの問題として考えられることはほとんどない。

ホワイトハンズの射精介助に関しても、「そうだよね。射精ができないと、子供が作れないから、そういったサービスは必要だよね」という声をちょっとくらい頂いてもいいんじゃないのかな、と思うのですが、残念ながら、そうした声は、今まで一度も頂いたことがないです。「自分で自慰行為ができないと大変だよね」レベルで止まってしまう。

障害者の自立生活支援に関わっている方々との会話でもよく出てくる話題なのですが、障害のある人が自立生活に乗り出す際のモチベーションって、ぶっちゃけて言えば「恋人が欲しい」「一人暮らしをして、自宅に恋人を呼んでセックスしたい」だったりするわけですから。障害の有無にかかわらず、若者が親元を離れて自立したい理由の大半は、これですよね。だったら、それを活かさない手はないはず。

それを見ないふりをして、やれ「ADLの自立」だの「就労による経済自立」だのと美辞麗句を並べても、「何のための、誰のための自立なの?」「親のための自立なの?」「支援者のための自立なの?」となってしまう。

施設の職員の方と話していると、「うちの利用者は、性的な欲求を全く表に出さないんですよ」「ホワイトハンズさんの活動は確かに必要だと思いますが、性的欲求を一切表に出さない、そもそもそうした欲求が無いように思える彼・彼女たちに、性的支援をする必要は本当にあるのですか?」という話を聞くことがあるのですが、本書を読んで、「性的欲求が無い」のではなく、「性的欲求を出してほしくない、という親や周囲の支援者の空気を敏感に読んで、意識的に出さないようにしているだけ」なのでは、という疑問が浮かびました。

知的障害者の欲求やアイデンティティは、他者依存性が非常に高い。言うなれば、親や支援者の性的価値観をそのまま映し出す「鏡」である。

その意味で、「障害者の性」問題の解決は、非常に時間のかかる難儀な作業になりますが、「ライフコースの視点からセクシュアリティの問題を考える」という切り口は、知的障害者のみならず、全ての障害者の性問題に共通する問題解決の切り口になると思います。その事実を確認できる点で、本書は必読です!気になる方は、ぜひ、手に取ってみてください。


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一般社団法人ホワイトハンズ 
 
代表理事 坂爪真吾(さかつめ・しんご)
 
私たちは、「新しい性の公共」をつくります。
 
★ホワイトハンズ:2014年のイベント予定

■3月16日(日) セックスワーク・サミット2014@歌舞伎町・壱

■3月23日(日) ヌードデッサン会「ららあーと@大阪」


4月27日(日) 「障がい者の性」基礎研修@福岡

5月24日(土) 「障がい者の性」基礎研修@広島

5月25日(日) 「障がい者の性」基礎研修@大阪

6月15日(日) 「障がい者の性」基礎研修@仙台

7月27日(日) 「障がい者の性」基礎研修@名古屋

10月19日(日) 「障がい者の性」基礎研修@札幌

11月16日(日) 「障がい者の性」基礎研修@京都

いずれも、定員に限りがございますので、お早めにお申し込みください!

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