【2126日目】書評「性の悩み、セックスで解決します 900人に希望を与えた性治療士の手記」(シェリル・T・コーエン&ローナ・ガラーノ、柿沼瑛子訳:イースト・プレス)

評価:
シェリル・T・コーエン‐グリーン,ローナ・ガラーノ
イースト・プレス
¥ 2,310
(2014-02-07)

映画「セッションズ」に登場するサロゲート・パートナー、シェリル・T・コーエンさんの自伝。

本来のタイトルは「An Intimate Life:Sex,Love,and My Journey as a Surrogate Partner」です。

シェリルさんの公式ホームページでも紹介されていますね。

個人的にずっと読みたかったのですが、まさかの日本語翻訳版がイースト・プレスから出版。しかもホワイトハンズ事務局に献本までして頂いたので、感謝の意を込めて、がっつり書評を書かせて頂きます!

合計441ページの分厚い本ですが、セクシュアリティに関わっている職業の人は必読の一冊です。


●「性革命」から「新しい性の公共」へ


1940年に、アメリカ東海岸の厳格なカトリックの家庭に生まれ育ったシェリルさんは、人間の性を封じ込めようとする家庭と学校教育に反発し、14歳で初体験、19歳で結婚をし、二児の母親になる。1960年代後半〜70年代の性革命の時代の流れの中で、カリフォルニアに移住したシェリルさんは、サロゲートパートナーという職業に出会い、性の悩みを抱えたクライアントの治療と、セクシュアリティの啓発活動に乗り出す。

シェリルさんの幼少時代の性体験から、マスターベーション〜初恋〜初体験〜結婚〜妊娠・出産〜育児〜オープンマリッジ〜離婚〜乳がんとの闘病〜70代でも現役として活動している老年期の現在まで、一人の女性の約70年間のセクシュアル・ライフが丁寧に描かれているだけでなく、随所に50年代のマスターズ&ジョンソン、60〜70年代の性革命時代のオープンマリッジ、避妊リングの副作用、80年代のエイズパニックや、それに伴う保守派による性教育バッシングなどの社会現象もふんだんに盛り込まれているため、まさに「セクシュアリティを学ぶ教科書」というべき自伝になっています。読み応えは抜群。

改めて考えると、70年代の強烈な性革命の時代に、セクシュアリティにまつわる問題の大半には、ある意味で答えが出てしまったのでは、と。

ロックで言えばビートルズ、マンガで言えば手塚治虫みたいな感じで、あの時代に、あらゆる論点が出され、あらゆる試みが実際になされて、出るものが出尽くしてしまったのでは、と。

シェリルさんを含め、革命の時代を肌で体感した人は、その時代の熱や残像を引きずったまま、その後の人生を送ることになる。

革命の時代を体感していない人は、革命を知らないがゆえのシラケに悩まされたり、逆に、知らないが故の無知によって、過去に既に答えの出ている試みを、無意味に反復してしまったりする。

要するに、世代間の断絶が起きるわけですね。

ひるがえって2014年現在、おそらく、シェリルさんのような「革命の時代の体験者」にとっては、今の時代の状況は、70年代から全く進歩していない、まどろっこしいものに見えるのではないでしょうか。

本書の中では、50年代のアメリカのカトリックの家庭や学校における厳格な教育、メディアによる一方的な性情報の弊害が描かれていましたが、家庭や学校での性教育の欠如と、それと反比例するメディアでの偏ったセックス情報の蔓延は、60年後の現在でも、程度の差こそあれ、そんなに変わっていないのではないでしょうか。

70年代に革命的な治療法として話題になったサロゲートも、因習を打ち破る新しい夫婦関係とされたオープンマリッジも、結局、文化としては根付かなかった。その後の保守派によるバックラッシュによって、多くの蓄積は失われてしまった。

これだけ見ると、結局何も変わらなかったように思えてしまうのですが、あの革命の時代を通過したことで、確実に社会は一回転したはず。歴史的に見ても、フランス革命や明治維新のように、革命の反動で、帝政復活や王政復古のバックラッシュが起こる、と言うのはよくある話ですが、長い目で見れば、確実に社会は変化の方向に向かうはず。

そう考えると、2014年を生きる我々の仕事は、もう一度「第二次性革命」を起こすことではなく、70年代の「第一次性革命」の時代に出された論点や教訓をしっかりと受け止めた上で、「革命」の成果を、日常の制度=「公共」へと、着実に結実させていくことではないでしょうか。それこそが、ホワイトハンズがミッションとして掲げる「新しい性の公共」だと言えると思います。


●サロゲートと日本の風俗


サロゲートパートナーについては、「障害者の性」白書2012(残部僅少!)でガッツリ批判的に書いたので、詳しくはそちらをお読み頂きたいのですが、理論的には200%正しい、社会的に必要な職業だと思います。

ただ、社会のセクシュアル・リテラシーが低い段階では、誰が、何を、どれだけ、どのように弁明しようが、「売春婦でしょ」の一言でおしまい、です。九九のできない小学生に微分積分を教えるようなもので、構造的に、理解も共感も不可能。

サロゲートパートナー、アメリカでも数えるほどしかいないそうなのですが、これは、需要が少ないのではなく、上記の通り、社会のセクシュアルリテラシーが低いことが理由だと思います。裏を返せば、アメリカでも、せいぜい数十人いれば十分、ということになる。

日本の風俗嬢は約30万人いるとされていますが、その中で、シェリルさんのようなサロゲートパートナーとしての仕事をきちんとできるだけの能力と知識のある人は、1万人に1人いるかいないかのはず。ただ、これだけ「素人」「恋人気分」といった表象に溢れている性風俗の世界を見れば、風俗を利用する男性の多くは、(表面的には異なりますが、本質的には)サロゲートパートナ―的なサービスを必要としているような気がします。

本書で登場した男性サロゲートのスティーヴ・ブラウンの言葉を借りれば、風俗を利用する男性に本当に必要なのは、お金を払って椅子に座って待っていれば自動的に美味しい料理が出てくる「レストラン」ではなくて、自分で美味しい料理(=恋人・配偶者)を作ることができるようになるための「料理学校」であるはず。

来月頭にホワイトハンズで発行予定の「SEX WORK JOURNAL JAPAN」でも、セックスワークの社会化のための布石として、風俗の「学校化」を提唱しています。シェリルさんの言う通り、「セックス自体は自然なものだけれども、自然にできるものではない」。

サロゲートパートナーのような個人が頑張る形(特定個人にあらゆる批判やスティグマが押し付けられてしまう形)ではなく、組織として、制度として、こうした「学校化」を実現することが、これからのセックスワークの世界に必要なことだということを改めて確認しました。


まとめると、サロゲートパートナーは、日本でベタに模倣することは不可能ですが、その理論や目的から学ぶべきところは非常に多い。サロゲートパートナーをうまく換骨奪胎して、「新しい性の公共」の構築に活かしていくことが重要だと思います。

「障がい者の性」問題やセックスワークの問題に興味関心のある方はもちろん、セクシュアリティや性教育の問題に関心のある方にも、ぜひ読んでほしい一冊ですね。発売は来月2月上旬の予定なので、気になる方は今すぐAmazonでご予約を。


**************************************
一般社団法人ホワイトハンズ 
 
代表理事 坂爪真吾(さかつめ・しんご)
 
私たちは、「新しい性の公共」をつくります。
 
★ホワイトハンズ:2014年のイベント予定

■3月16日(日) セックスワーク・サミット2014@歌舞伎町・壱

■3月23日(日) ヌードデッサン会「ららあーと@大阪」


4月27日(日) 「障がい者の性」基礎研修@福岡

5月24日(土) 「障がい者の性」基礎研修@広島

5月25日(日) 「障がい者の性」基礎研修@大阪

6月15日(日) 「障がい者の性」基礎研修@仙台

7月27日(日) 「障がい者の性」基礎研修@名古屋

10月19日(日) 「障がい者の性」基礎研修@札幌

11月16日(日) 「障がい者の性」基礎研修@京都

いずれも、定員に限りがございますので、お早めにお申し込みください!

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