【1931日目】書評:「立身出世と下半身 男子学生の性的身体の管理の歴史」(澁谷知美:洛北出版)


東京出張中の新幹線内で、600ページ読破。本日の打ち合わせ@大宮でも話題になったので、ガッツリ書評を書かせて頂きます!

もう10年も前の話になりますが、私が東大上野ゼミの学生だった頃、澁谷さんの『日本の童貞』(2003年・文春新書)という本が出て、話題になったことがありました。電車の中吊り広告にも、ド〜ンと出ていて、「へぇ〜、凄いなぁ〜」と思った記憶があります。

私は当時、ゼミで歌舞伎町研究をしている真っ最中だったので、「こっ、これは読まねばならぬ!」と思って『日本の童貞』を熟読しまして、澁谷さんが同著を発表されたジェンダーコロキアムにも参加しました。確か着物でプレゼンをされていて、とてもカッコよかったことが記憶に残っております。

コロキアムの中で、司会者の方が、「こういう本を出すと、『自分の知りたかったことが書いていない!』『自分が大切だと思っていることが書いていないじゃないか!』という批判が必ず寄せられるが、それは、外在的批判に過ぎない。あくまで、著者が何を問いとして設定しており、その問いに対して、適切な回答がなされているかどうかのチェック=内在的批判こそが、重要である」といった趣旨のことをおっしゃっていて、「なるほど、確かにそうだよなぁ」と、うならされた記憶があります。

本著に関しても、(特に業界内部からの)外在的批判が寄せられがちな一冊だと思うのですが、外在的批判を書き連ねても生産的なものは何も生まれないので、あくまで内在的な観点から、好意的な立場で、書評を書かせて頂きます!


本著を読んだ感想は、やはり、「男性の性を問題化することの難しさ」です。

本著の中で取り上げられている「M研」をはじめ、男性の性にまつわる現象や問題には、「顕在化しなかっただけで、無かったわけではない事実」が大量に存在する。

そして、男性たちは、自身の性の問題を、なかなか言語化しようとしない。そもそも、「自分の問題」として考えず、「自分とは無関係な問題」として、自己から切り離すことも多い。

そのため、男性の性にまつわる現象や問題を研究対象として浮かび上がらせるためには、乏しい資料をどうにかしてかき集めて、周辺資料と突き合わせながら、「資料の不在」自体を解釈し、意味を見出していく、という手法をとるしかない。

しかし、そうなると、研究者本人による「解釈」「意味づけ」の比重が大きくなってしまい、せっかく頑張って資料を集めて分析しても、研究者本人が元々持っている思想なり仮説なり先入観なりを、そのまま投影させるだけ、で終わってしまうリスクがある。

もちろん、それでも「何もやらないよりはまし」「先行研究や言説がゼロの状態よりはまし」なので、足りないパズルのピースを埋める意味でも、世に出す意義は、大いにある。

ただ、そうやって頑張って世に出しても、筆者の意図や苦労はあまり世間に伝わらず、Amazonレビューでクソミソに叩かれるだけだったりするので、本当に報われない世界だなぁ、と切に思います。


真の問題は、「男性の性が、社会的に問題化されないこと」「男性が、自分の性をほとんど語らないこと」こそにあるはず。

しかも、こういった状況を問題化しているのが、男性ではなく女性であるという点=「男性の性問題の問題化と分析の重荷が、なぜか女性に負わされてしまっている」という点、それ自体が大きな問題かと。

だって、10年前の『日本の童貞』にしても、渋谷さんが書くまで、学問の世界では、男性陣は「童貞」について、ほとんど誰も、まともに問題化してこなかったんですから。

本来であれば、男性自身が、きちんと語るべき&解決するべき、男性の・男性による・男性のための問題なのに、男性は、誰もそれをやらない。

デートDVの問題などのように、男性の性問題が、まともに語られないまま・解決されないまま放置されると、それは、男性と付き合っている女性にも悪影響を及ぼす。

そこで、女性が、「男の問題なんだから、男の力で解決しろよ」と言いたい気持ちをグッと抑えて、男性の性を問題化しようとするのだか、前述の理由で、それは非常に困難なものになる。

結果、中途半端な&女性目線での問題化しかできないのだが、それを、当の男性陣がよってたかって批判する、という、あんまり美しくない光景が繰り広げられる、と。

例えると、自分の病気に気づいていない(気づきたくない)患者を、何とか気づかせよう&治そうと医師が努力するものの、患者の理解と協力が得られないために、病気に気付かせること&病気を治すことができず、かつ、患者からも「俺は病気じゃない」「余計なことをするな」と怒られるので、医師は匙を投げてしまい、ますます患者の病状は悪化する一方・・・みたいな感じでしょうか。

本書の内容に批判するべき点があるとすれば、その原因は、著者の分析不足やテーマの選定ミス、解釈の偏りではなく、そういったものを引き起こす根本=「男性が、自分の性をほとんど語らないこと」にあると思います。

まとめると、「男性が、自分の性をほとんど語らないこと」が、研究の世界のみならず、性にまつわる多くの社会問題のボトルネックになっている、ということを再確認できる点で、本著は非常に有意義な一冊だと感じました。

買春や性教育など、男性の性に関する問題に取り組んでいる団体やNPO、研究者や関係者にとっては、「基本文献」=教科書的な一冊になると思います。

まとめの部分で出てくる「抑制不可能言説」「生産称揚言説」などのフレームワークは、例えば、セックスワークの問題系を考える際にも、応用できるのではないでしょうか。先日の橋本市長の風俗発言なんて、まさに「抑制不可能言説」「生産称揚言説」の全面発露、でしたしね。

明治期の「学生風紀問題」、現代の視点から見ると非常に滑稽ですが、目下話題になっている児童ポルノ禁止法問題も、根っこの部分では、明治の「学生風紀問題」と全く同じなのでは、という見方もできるかと。

性教育の歴史も、実は「花柳病」が「エイズ」に置き換えられただけで、「病気をダシにして、セックスの恐ろしさを脅迫的に伝えるだけで、具体的な方法は何も教えない」という基本的な構図は、明治の頃から変わっていないのでは、という見方もでき、非常に勉強になりました。

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「性の専門職」育成プログラム:「ホワイトハンズ・プログラム」         

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