【1885日目】毎日新聞(5月25日)「橋下氏発言、風俗業の女性に波紋」コメント全文


5月25日(土)の毎日新聞の記事「橋下氏発言、風俗業の女性に波紋 私たちは暴力のはけ口か」に、ホワイトハンズとしてコメントを寄せました。

ご覧頂ければお分かりの通り、実際に掲載されたのは、ごく短い文章なのですが、元々の本文は結構な長文ですので、そちらをブログに掲載いたします。興味のある方は、ぜひご一読ください。

ちなみに、記者の方にもお伝えしたのですが、性風俗の問題に関する新聞記事としては、これ以上無い、素晴らしい内容だと思います。

これより複雑・専門的なことは新聞という媒体では書けないし、また、これより問題を単純化してしまっても良くないので、まさに絶妙なバランスの記事です。


(以下全文掲載)

*************************

「風俗で働く女性の人権に関する論争やその経緯について」


1.「風俗で働く女性の人権」に関する、法律的な前提知識の解説


●風営適正化法の問題点


「風俗で働く女性の人権」の観点からみる風営適正化法の問題点は、以下の2点です。

1つ目は、「欠格事由の欠如」。

風営適正化法において、性風俗特殊営業は「許可制」ではなく、「届出制」を採用しているため、届出を出せば、誰でも営業を開始することができます。

クラブやキャバレー等の風俗営業は「許可制」であり、申請者や法人役員に、欠格事由に該当する人(暴力行為の常習や薬物中毒、過去に違反歴がある人など)がいる場合は、営業の許可が下りません。

しかし、デリヘル等の性風俗特殊営業は、欠格事由が無いため、暴力団関係者であっても、薬物中毒者であっても、過去に犯罪歴のある人でも、届出さえすれば、性風俗店の営業を開始できるわけです。

これは、働く女性にとって、極めて大きなリスクです。

性風俗特殊営業に欠格事由が存在しない理由は、性風俗産業という存在自体が、「本質的にいかがわしいもの」「誰が、どのように営んでも、不健全になることをまぬがれないもの」と考えられているから、です。

そういった「本質的にいかがわしいもの」「誰が、どのように営んでも、不健全になることをまぬがれないもの」は、行政が公的に認証したり、営業の適正化のためのガイドラインを作ったり、進むべき方向やビジョンを提示することはできない、という立場で、風営適正化法はつくられています。

そのため、風営適正化法には、性風俗関連殊営業については、適正化を指向した遵守事項(女性の権利擁護、労働環境の整備、利用客の身元確認の徹底、違法な匿名営業・虚偽広告の禁止、衛生管理等のルール)は、一切存在していません。


この「適正化を指向した遵守事項の欠如」が、2つ目の問題点です。

すなわち、性風俗は、誰が、何を、どうやっても、「有害な存在」「社会の害虫」「汚点」でしかないのだから、営業内容について、行政が指導や監督をする必要は無い(そんな汚い世界に、直接手や口を出したら、お上の権威やブランドが傷ついてしまう!)、という考えです。

その結果、性風俗の世界は、女性に対する性的虐待や人身売買まがいのサービスが平然と行われていたり、性病予防等の衛生管理が満足に行われていなかったり、身元の不確かな男性客の元に派遣されて、犯罪やトラブルに巻き込まれたり、違法な匿名営業・虚偽広告が蔓延していたり、知的障害や精神障害のある女性が当たり前のように働かされていたりするような、「無法地帯」になってしまっています。


2.「風俗で働く女性の人権」に関するこれまでの論争の経緯


●「2つの欠如の解消」が、唯一の解決策


つまり、風俗で働く女性の人権を守るためには、風営適正化法における「欠格事由の欠如」と「適正化を指向した遵守事項の欠如」という、2つの欠如を解消する必要があります。
 
風営適正化法の枠内では、前述の立法趣旨もあって、風俗嬢の人権や労働環境を守ることは、論理的にも、現実的にも、不可能です。

もちろん、法律を改正して、上記2つの欠如を無くす、という選択肢もありますが、それは極めて難しいでしょう。

そのため、第三者機関のNPO、及び性風俗店の経営者・従業員が、「適正化を指向した遵守事項」を自主的に作成し、普及させていく必要があります。

こちらの選択肢も、実現は容易ではありませんが、「適正化を指向した遵守事項」を作成せずに、現状の反社会的かつ不衛生なサービス内容のままで、性風俗の意義や価値、そして、そこで働く女性の人権を守ることの重要性を一般社会に認めさせることは、100%不可能です。

性風俗業界の内部だけでなく、外部の一般社会とのコミュニケーションや議論を通して、「適正化を指向した遵守事項」をつくり出し、それを普及・遵守させていくことが、風俗で働く女性の人権を守るための、もっとも有効な選択肢だと考えます。


●実りのある論争は、残念ながらほとんど行われていない


しかし、残念ながら、現実は、「風俗で働く女性の人権を守る」ことについて、そこまで突き詰めた議論がなされることは、ほとんどありません。

1984年の風営法改正から数えると、本番行為を伴わない性サービスを提供する性風俗産業の法律上の歴史は、約30年。

この30年間、「風俗で働く女性の人権」に関しては、前述のような、売春防止法や風営適正化法の立法趣旨及び問題点を踏まえた、具体的な論争が起こったことは、ほとんどありませんでした。

店舗型性風俗店の全盛期(無届の違法店も多かったが、店舗間の競争原理が働き、それなりに女性の労働環境が整っていた時代)の90年代後半〜00年代前半に、援助交際の問題や、欧州諸国の売春合法化の潮流と合わせて、社会学系の研究者らを巻き込んで、風俗の世界で働く女性の権利向上を求める「売春合法化(非犯罪化)論争」が、一時的・局所的に盛り上がったことはありました。

しかし、その後、2004年の歌舞伎町浄化作戦をはじめとする店舗型性風俗店に対する規制・摘発の強化と、デリヘルに代表される無店舗型の爆発的な増加(による価格競争の激化〜労働環境の悪化、風俗嬢間の連帯の消滅)という背景もあって、議論の盛り上がりは、ほとんど消えてしまいました。

以後、単発で性風俗に関する調査研究や著作の出版がなされたりすることはありましたが、そういったものが、「風俗で働く女性の人権」の擁護に関して、何らかの生産的な成果につながるような動きは、現時点では、起こっていません。


●非当事者に代弁され続ける「風俗で働く女性の人権」


この30年間で、延々と繰り返されてきたのは、「自分の主張のために、風俗で働く女性を勝手に代弁したり、都合の良い存在として利用したりする人たちの発言」です。

政治家、研究者、ルポライター、作家、評論家、教育者、企業、人権団体、NPOなどなど、様々な個人や組織・団体が、自分たちにとって都合の良い「風俗嬢イメージ」をつくり出し、それを「自己責任」「性の商品化」と批判したり、「性的自己決定権」と称揚したり、「人権を侵害された可哀そうな人たち」と同情したり、「男性社会の犠牲者」と自己投影したりすることで、世論を喚起してきました。

これには、歴史的な背景もあります。

1984年の風営法改正以来続いている、性風俗店の隔離化・不可視化・無店舗化の流れの中で、ほとんどの人は、性風俗店の看板やチラシを見たことも無ければ(そもそも、風営適正化法の規制で、デリヘルは看板やチラシを出せない)、風俗嬢にまともに会ったことが無い状態、ましてや、性風俗店の経営者なんて、どこにいるのか見当もつかない、という状態になりました。

当事者に会ったことが無いから、勝手に代弁せざるを得ない。そして、当事者も、全く声を上げない(そもそも上げられない、もしくは上げる気も無い)ため、勝手に代弁されるがまま。

実体の無い存在を勝手に代弁しても、実体が無いのだから、当然、代弁された側から、異論や反論は出ない。結果、さらにご都合主義的な代弁が増える・・・という悪循環。


●まとめ


その意味で、「風俗で働く女性の人権」に関して、実りのある論争が行われた経緯は、これまでの約30年間で、残念ながら、ほとんど無い、というのが、現実です。

現代の日本社会には、残念ながら、性(風俗)の問題を論理的に議論できるだけのセクシュアル・リテラシーが無い。風俗で働くことの是非を問うだけの、感情的・倫理的(道徳的)な視点からしか、この問題を議論できない。

しかし、それでは、「風俗で働く女性の人権」を守るための唯一の解決策=社会のみんなの間での話し合いを通して、性サービスの「適正化を指向した遵守事項」をつくりあげることなど、夢のまた夢、です。

今回の橋下市長発言をめぐる論争のような騒ぎは定期的に起こりますが、そういった「祭り」や「炎上」騒ぎから、何か生産的なものが生まれた例はない。そして、これは、これまでも、これからも変わらないはず。

むしろ、この騒動をきっかけに、風俗に関する表面的な議論だけではなく、背景にある法律・歴史・社会意識の問題についても、興味を持って下さる人が増えることを望みます。



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