【1718日目】書評「デフレ化するセックス」(中村淳彦・宝島社新書)


年末の売春本出版ラッシュ、ラストは中村淳彦さんの「デフレ化するセックス」。

個人的には、今回の売春関連本3冊(他2冊は、鈴木大介「援デリの少女たち」、荻上チキ「彼女たちの売春(ワリキリ)」)の中では、一番面白かったですよ〜。

もちろん、他の2冊がつまらなかった、という訳では全く無く、私の問題意識=「セックスワークの社会化」に照らし合わせると、ルポ形式の「援デリの少女たち」、同じくルポ&データ提示重視の「彼女たちの売春(ワリキリ)」よりも、本書内で提示されていた「各種性風俗の採用難易度の偏差値」表に、非常にインスパイアされました。

この表を活用すれば、「援デリの少女たち」でも「彼女たちの売春(ワリキリ)」でも明確な答えを出せていなかった、セックスワークや売買春の「これから」に関する展望=「では、具体的に、何をどうすればいいか」が、はっきり見えてくるのではないでしょうか。

●デリヘルが、メディアやアカデミズムで取り上げられない理由

また、本書を読んで、前々からの疑問が、一つ解消しました。

その疑問とは、「なぜ、メディアや研究者は、性風俗業界における、店舗数・女性従事者共に最大のマジョリティであるデリヘルを、取材対象・研究対象として取り上げないのか?」という疑問です。

先日の歌舞伎町サミットでも述べましたが、デリヘルの店舗数は、全国に約1万5千店。セブンイレブンの店舗数(約1万3千店)よりも多く、そこで働いている女性は、10万人を超えると推定されています。

しかし、今回の出版ラッシュでも、3冊のうち、2冊のテーマは「援デリ」及び「個人売春」で、デリヘルに関しては、ほとんど取り上げられていなかったかと思います。

セックスワークの研究者にしても、なぜだか皆さん、飛田新地のような「1.0」の世界や、「ちょんの間」といった、ほぼ絶滅寸前の化石のような業態、及び売春防止法の問題系にばかり注目して、最大のマジョリティであるデリヘルには、ほとんど意識を向けていない。

その答えとしては、「デリヘルは、良くも悪くも一般社会化=働いている女性が普通の人になってしまって(=普通以上の容姿・常識のある人でなければ、そもそも働けなくなってしまって)、メディア取材のネタ&研究のネタとしては、端的につまらないから」なのでは。

もちろん、「ネタとしてつまらない」という事実と、「だから注目しなくていい」という判断とは、論理的にも倫理的にも、結びつけてはいけないと思いますが・・・。

本書「デフレ化するセックス」によれば、地方都市のデリヘルの採用偏差値は「51」。

すなわち、10名応募したら、面接を受かるのは、せいぜい2〜3名程度。

カテゴリー的には「一般女性」で、「ブスとは言われない容姿に、無駄肉の無いカラダ、胸はBカップ〜Cカップ程度」だそうです。フェミニストの人が聞いたら、卒倒しそうな話ですが。

イメージ的には、「地元の公立学校の30人学級で、クラス内で上から2〜3番目くらいにかわいい子」みたいな感じでしょうか。

つまり、20歳〜35歳の女性のおおよそ半分は、(良くも悪くも)「デリヘル嬢」にはなれない、ということになります。なれるのは、ある意味で選ばれた人だけ。

先日の歌舞伎町サミットでも、GAPの角間さんが、「派遣型には、精神的に病んでいるような人は少ない」とおっしゃっていましたが、精神的に病んでいる時点で、もう既に、一般のデリヘルでは働けないのでしょう。

言い換えれば、採用偏差値51の「地方都市のデリヘル」が、性風俗の世界の中では、「それなりに健全に働けて、貧困ラインを上回る、月収17〜20万程度をどうにか確保できる業態」と「健全には働けず、さらに、ほとんどお金を稼げない業態(=働けば働くほど、病む一方の業態)」の分岐点と言えるはず。

ということは、「地方都市のデリヘル」=偏差値51を基準として、そこに「関所」=参入障壁のようなものを築けば、面白いのではないでしょうか。

つまり、「地方都市のデリヘル」で働けるレベルの女性に、健全に働いてもらえるような仕組み、そして、「地方都市のデリヘル」では働けないレベルの女性に、すみやかに夜の世界から退出してもらう仕組みをつくれば、セックスワークの世界の不幸は、随分と減らせるのではないでしょうか。

最近の就活で言われる「ミスマッチ」問題、夜の世界にも、全く同じように当てはまるような気もします。

すなわち、「セックスワークで高収入を稼ぎたい」と考えている女性=「大企業で安定した収入を得たい」と考えている大学生。企業の99%は中小企業なのに、わずか1%の大企業に応募が集中するので、過剰競争が生じ、病む人が増える、と。

この「ミスマッチ」を解消する、交通整理システムのようなものが必要なのでしょうね。


●1980年生まれ=セックス市場の超VIP世代論について

これは、私も1981年生まれなので、非常に共感できます。

先日の歌舞伎町サミットのゲスト、中山さんの前後の世代が、まさに援助交際全盛期で、様々な形でメディアを賑わせていましたよね。

当時は、今の「貧困」という露骨な視点ではなく、「自己承認欲求」だの「コミュニケーション・スキル」だのといった、ある意味、高等遊民的な視点で援助交際が語られていて、社会学者の宮台大先生が、ルーマンの社会システム理論で援助交際を説明したり、ブルセラ女子高生の類型化などをやったり、それはもう衝撃的でした。

当時、地方の進学校のひねくれた&鬱屈した生徒であれば、間違いなく、これらの宮台本にハマったはず(笑)。

私が現在、セックスワークの問題系に足を突っ込んでいるのも、この時代の影響が200%ありますし、現在最先端で活躍されている、荻上チキさんや開沼博さんなども、きっと同じような体験をされているのではないかな、と勝手に想像したり。

で、7月にシノドスジャーナルのインタビューで、同じく81年生まれの荻上さんとお会いした際、(うろ覚えで、間違っていたら大変申し訳ないのですが)「セックスワークの問題系に関しては、自分たちの世代は、宮台を反面教師にしなければならない」とおっしゃっていた記憶があります。

この言葉の意味、あの時代に生きていた人なら、なんとなく、分かりますよね。

あの時代、援助交際が「性の自己決定」だの「魂に良い」だの「新しい生き方の形」だの、散々持ち上げられたわけですが、終わってみれば、メディアで持ち上げられ、イケているように見えた援助交際経験者の大半は、メンヘラーになって薬漬け、という悲惨な結末になってしまった、と。

援助交際からそのまま性風俗の世界に入って、30を過ぎても未だに抜けられず、デリヘルで働いている女性も、たくさんいますしね。

援助交際の議論に合わせて、売春合法化の議論も行われ、一瞬だけ、盛り上がりましたよね。「性的弱者救済のためにも、売春合法化は必要」などという論点も出されて、その過程で、「障害者の性」問題が取り上げられたこともありました。セックスについて語る障害当事者が、メディアで持ち上げられたこともありましたね。

で、2012年の今、改めて振り返ってみると「あの時代に行われたことは、セックスワークの世界にも、社会的にも、何ら生産的なものを残さなかった」という寒々しい結果だけが、見えてしまいます。

「売春合法化」なんて、もう誰も言ってませんし。それに合わせて持ち上げられた「障害者の性」問題及び当事者の人も、完全に消えましたしね。宮台さんに持ち上げられて、そして消えて行った人たち、一体、今はどこで何をされているのでしょうか。

もちろん、これは宮台批判とかでは全く無く、あの時代に出された論点や処方箋を、キチンと理解して、それを現実世界で実行&具現化できるだけの組織や個人がいなかった、というのが原因かと。

その意味で、「宮台を反面教師にしろ」というのは、「あの時代に出された論点や処方箋を、現実世界で実行&何らかの制度やサービスとして具現化できるだけの組織を作れ」ということだと、私は解釈しています。

●取材者側の「闇(病み)感染」の問題

最後に、セックスワークの問題系に取り組む際の「暗黒面」の問題について。

本書「デフレ化するセックス」をはじめ、鈴木大介さんの「援デリの少女だち」、荻上チキさんの「彼女たちの売春(ワリキリ)」を読んでいて、すごく思うのが、「これだけブラックな世界を長期間取材していると、著者のメンタル面での健康に、何らかの支障は出ないのだろうか?」という点です。

もちろん、大きなお世話なのかもしれませんが、これだけのボリュームで、病んでいる人、病んでいる世界、病んでいる社会を取材していると、取材者側も、その影響で、「闇(病み)」に感染する=確実に病むような気がします。

セックスワークの問題系に取り組もうとした人は、これまでも大勢いらっしゃったかと思いますが、多くの場合、途中で心を病んでしまって(あるいは、はじめから病んでいて)、中途リタイア、というケースが非常に多いような気がします。

先日の歌舞伎町サミットでも論点に出ましたが、性の問題系に取り組むNPOや支援団体がそもそも長続きしない、というのは、この問題が背景にあるかと。

問題解決に取り組んでいる(ように見える)関係者自身に病んでいる人が結構多くて、さらに、病んでいる人同士で、本業そっちのけで誹謗中傷し合ったりしたり、と、なんだかもう勘弁してくれ&極力関わり合いになりたくないッス、みたいなケースも多かったです。

思うに、「闇(病み)」に勝つ方法は、3つしかないと思います。

1.とにかく「そういうものだ」と慣れてしまう(力技!)

2.学術的な訓練&理論武装をして、目の前の事象に対し、相対化&類型化&帰属処理を自動的に発動させ、自分のメンタルを守る

3.健康的な生活を送り、「闇」から極力、距離を置く(最初から近寄らない)

思うに、鈴木さんと中村さんが「1」寄りのタイプで、荻上さんが「2」寄りのタイプのような気がします(全て私の勝手な主観ですが・・・)

ちなみに、私は「2」寄りの「3」です(笑)。

セックスワークをはじめ、性の問題に取り組む際は、「病み感染」しないように、かなり意識して、健康的な生活を送らなければいけない、と考えています。

飲酒や喫煙など言語道断、毎日栄養バランスのとれた食事をとって、定期的に有酸素運動をして、日々定時に起床&就寝し、円満な家族関係をキープ、みたいな。

笑い話に聞こえるかもしれませんが、この点は、いくら強調してもしすぎることはないかと。

社会問題の解決や、組織の活動を軌道に乗せるためには、5年、10年、あるいはそれ以上の年月がザラにかかるわけですから、セックスワークの問題系に関わる中で、一番大切なことは「心身ともに健康であること」なのかもしれません。

そういう意味で、「心身ともに健康である人」が、もっとこちらの世界に入ってきてほしいですね。


やや話が脱線しましたが、「デフレ化するセックス」、セックスワークの今がリアルに分かる、名著です。ぜひ、書店でチェックされてみてください。


*****************************************
一般社団法人ホワイトハンズ 

代表理事 坂爪真吾(さかつめ・しんご)

私たちは、「新しい性の公共」をつくります。






「性の専門職」育成プログラム:「ホワイトハンズ・プログラム」         

コメント
デリヘルユーザーとして面白く読みました。でも実感として地方都市のデリヘルの採用偏差値はもっともっと低いかな…と思いますね。
  • nksk
  • 2012/12/12 6:51 PM
コメントありがとうございました。「地方」と一言で言っても、エリアごとに相当、差がありそうですよね。

都道府県別の偏差値表(デリヘルでの本番行為が、地元警察に黙認されているか否かも含む)をつくったら、それだけで新書が書けるような気もします。
  • ホワイトハンズ代表@愛妻家
  • 2012/12/14 10:06 PM
中村さんは、AV女優の取材後、取材相手が自殺して、
「もう沢山だ!」と書き捨て、一度は距離を置いた事があります。
なので取材する側もストレスがかかり過ぎると病むようです。
  • ゆうた
  • 2013/01/17 2:46 AM
コメントする








   
この記事のトラックバックURL
トラックバック

calendar

S M T W T F S
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  
<< June 2016 >>

一般社団法人ホワイトハンズ代表理事・坂爪真吾

事業内容の紹介

リアルタイムのつぶやき

Facebook

selected entries

categories

archives

recent comment

  • 【2840日目】サミット準備
    坂爪 (03/12)
  • 【2840日目】サミット準備
    しろくま (03/11)
  • 【2828日目】ジャーナル発売準備
    坂爪 (02/26)
  • 【2828日目】ジャーナル発売準備
    葉子 (02/26)
  • 【2722日目】小児科とマルチタスク
    サカツメ (11/13)
  • 【2722日目】小児科とマルチタスク
    葉子 (11/13)
  • 【2331日目】書評『なぜ「地雷専門店」は成功したのか?」(デッドボール総監督&ハラ・ショー:東邦出版)
    茨城のデリ屋 (04/25)
  • 【2331日目】書評『なぜ「地雷専門店」は成功したのか?」(デッドボール総監督&ハラ・ショー:東邦出版)
    通りすがりのサービス業 (04/23)
  • 【2331日目】書評『なぜ「地雷専門店」は成功したのか?」(デッドボール総監督&ハラ・ショー:東邦出版)
    違和感 (04/20)
  • 【2320日目】書評『失職女子。私がリストラされてから生活保護を受給するまで』(大和彩:WAVE出版)
    ホワイトハンズ代表 (01/03)

recommend

recommend

recommend

recommend

recommend

recommend

ビジョナリー・カンパニー 2 - 飛躍の法則
ビジョナリー・カンパニー 2 - 飛躍の法則 (JUGEMレビュー »)
ジェームズ・C. コリンズ
ホワイトハンズのバイブルです。針鼠の概念!

recommend

非営利組織のマーケティング戦略
非営利組織のマーケティング戦略 (JUGEMレビュー »)
フィリップ コトラー,アラン・R. アンドリーセン

recommend

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM